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東京高等裁判所 昭和51年(ツ)50号 判決

上告人

磯崎富蔵

右訴訟代理人

増田弘

被上告人

坂本彦市

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

別紙上告理由第一点について。〈省略〉

別紙上告理由第二点について。〈省略〉

別紙上告理由第三点について。

所論は、原判決が本件建物につき上告人と被上告人との間に授受された賃料が地代家賃統制令に違反したものであつても自由かつ任意に違反を意識しながらなされた賃料増額の合意に基づくものであれば賃料を受領した家主を非難し得ないと解したことには地代家賃統制令の解釈を誤つた違法があるというのである。しかし、原判決は、仮に上告人の主張するように本件建物の賃料が一か月一三円に停止されており、借主である上告人が右停止統制額を超えて支払つたことが不法原因給付であり、その不法性が貸主である被上告人にのみ存して上告人が被上告人に対しその超過部分の返還を請求し得るとしても、その超過部分が何らの意思表示も要せず当然に将来の家賃の支払に充当される筋合はないと説示しているのであつて、所論のような解釈をしているのではない。したがつて、所論は、いわゆる的なきに矢を放つものであつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用の限りではない。

別紙上告理由第四点について。

論旨は地代家賃統制令所定の統制額を超過して任意に支払われた家賃についても利息制限法の制限を超過して任意に支払われた利息が残存元本に当然充当されるのと同様に超過して支払われた家賃は将来の家賃に当然充当されると解すべきであるのにそう解しなかつた原判決には法令の解釈を誤つた違法があるというに帰着する。しかし、地代家賃統制令所定の統制額を超過して任意に支払われた家賃が将来の家賃に当然充当されると解することは、利息制限法所定の制限を超過して支払われた利息の元本充当につき解釈上の根拠とされた利息の天引につき制限超過天引額を元本の支払に充当したものと擬制する利息制限法二条に相当する規定がなく、これに代る借主保護の規定も見当らないから、困難であり、原判決が統制額を超過して支払われた家賃を将来の家賃に充当しなかつたことに違法はなく、論旨もまた採用の限りではない。

よつて、民訴法四〇一条、八九条、九五条に従い、主文のとおり判決する。

(吉岡進 園部秀信 太田豊)

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